夫のお金、妻のお金

木 旧暦 6月22日 先負 壬寅 七赤金星 Roland V32 231571日目

僕らが子供の頃は銀行に電子計算機もキャッシュカードもまだ無い時代であった。お金を下ろしたければ通いとハンコをもって銀行へ行き、窓口の前の長椅子に並んだのである。綺麗なお姉さんがいつもにっこり笑ってくれた。ATMが何台も並ぶ自動キャッシュコーナーやコンビニにさえ行列ができてしまう現代から思うと、昔はよくもまあ、あんなにのんびりしたことができたものだなと思う。給料も新入社員であった頃はまだ現金でもらった。細長い紙の明細表が給料袋に入っていて、それが電子計算機の印字出力であったので、そこになんだか文明を感じたのである。昔のお父さんは現金の入った給料袋を家に持ち帰り、それをお母さんに手渡すことで、「あなた、ご苦労様」と言われ、その家庭での存在感と威厳とを確かめる機会を与えられていた。家には家計というものがあった。いや、それは今でもあるのかもしれないが、夫のお金と妻のお金は共通のもので、そこから夫はお小遣いをもらうのが一般であった。銀行口座は個人名義であり、今は夫も妻も別々の口座を持つので、それだけ、共通のお金という意識が薄くなってきているのではないだろうか。近代知識人の苦悩、疎外感、孤独感というものは、銀行口座を個人名義でしか持てないということと関係がある。だが、それは仕方の無いことだ。寂しいと感じた時、あるいは夫婦の絆を深めたい時には、そっと寄り添うのも良いが、思い切ってお互いの口座へどんどん振込み合うのも現実的な方法ではないかと思う。