秋の田の

火 旧暦12月10日 先負 癸亥 一白水星 Alfred Alfrida V01 22974日目

百人一首を全部暗記してきなさい。」これが高校一年の冬休みに出された宿題であった。担任の先生は古文の先生で、この先生の手ほどきによって、僕は古文に親しみを持ち始めたのであるが、この宿題には閉口した。半分も覚えられなかったのではないかと思う。かるたではランダムに歌が読み上げられるが、本で読むときは歌の並ぶ順が決まっていて、その最初の歌は天智天皇の御製で、「秋の田の」で始まっている。それでこの歌に接するたびに高校一年の正月が思い出される。今でこそ百人一首の解説書の類はたくさん出ているし、インターネットでもずらずらと出てくるが、当時はあまり無かった。古文とは何か難しい昔の言葉としか思っていなかった。思春期で異性に憧れを抱くような頃に、どうもここに書いてあることの多くは恋の歌で、普段、口にすることを禁じられていることが大っぴらに書かれているのではないかということにうすうす気がついた。この頃に、係り結びの法則も習った。今でも覚えているのは、卒業式に歌うことになっている「仰げば尊し」に出てくる「今こそ別れめ」という句である。小学校の時から、この句は何かの境目のような感じで、「ここが人生の分かれ目」みたいな感じで歌っていたのであるが、何か変な感じがずっとしていた。それで係り結びの法則を習った時に、脳のどこかに稲妻が走って、もとの形は「今別れむ」に違いないと思い当たったのである。歌の意味に大きな感動がその時加わった。ものすごくうれしかった。誰かに話して見たかったが、周りはみな秀才で、そんなことお前、今頃知ったのかと言われそうな気がして、胸のうちにしまった。懐かしの高校時代である。