親孝行

金 旧暦 12月4日 先負 壬戌 二黒土星 August, Augusta V1 22611日目

「親孝行したい時には親はなし」と良く言うが、何をすれば親孝行になるだろうか。それは一般に思われているほど自明なことでは無いと思う。日本が貧しかった時代には、親を東京見物させてやって、「二重橋だよ、おっかさん」とでもやれば、感涙に咽ぶ親もあったかも分からないが、物があふれる現代に親を喜ばせるのはむつかしい。結局、いつもそばにいて、優しい言葉をかけたりすることが親孝行になるのかもしれない。僕は長男に生まれながらスウェーデンに移住してしまった。そのことを言い出した時、母はとても悲しんだ。その意味では僕は大変に親不孝である。少しでも親孝行になろうと思って、日本へ帰るたびに親に会いに行ったが、親孝行ができたという実感はいつもなかった。母が生きている間に一度だけスウェーデンに呼んだことがあるが、この時もあまり親孝行をしたとは思わなかった。いつからか、母は姉のところで暮らすようになってくれたので、僕としては安心であったが、姉の方が僕よりずっと親孝行になった。遠く離れて住んでいても心の通い合う人はいる。親孝行にもそのような形があって良いのではないかと思うのは、やはり僕の身勝手だろうか。僕は自分の子供に対しては惜しみなく自由を与えたい。僕自身が両親から自由を貰ったからである。母が亡くなって、僕はもう母に会うことはできない。それはまぎれもない事実であるが、僕は死が母と僕とをそんなにも隔てたとは思っていない。それで、親孝行たらんとする思いは、僕にとっては今もやむこと無く続く目標のひとつなのである。