日本に種痘を広めた人

日 旧暦 7月27日 先負 戊午 九紫火星 Adela, Heidi 14e. tref. V35 22489日目

幕末の頃、東北地方の飢饉は目を覆うばかりに悲惨であった。が、全国的に流行した天然痘もまた脅威であった。疫病が流行ると人々は為すすべを知らなかった。西洋では種痘による確実な予防法が成果をあげていることを知った越前福井藩の町医笠原良策は、私財をなげうち、身命を賭して、種痘の越前福井藩への導入を計画し実行する。外国技術の導入がご法度の時代でもあった。周到な運動の末、越前藩主松平春嶽の理解を得ながらも、現場では役人からの様々な妨害や人々の無理解と戦わなければならなかった。親たちは可愛い我が子に恐ろしい毒を植えつけることなどできないと言って種痘を拒否する。町を歩けば異国の妖術使いとよばれて石を投げつけられる。結果を知るものには自明のすぐれた医術も、知らないものにとってはいかがわしい術にしか見られなかった。山里の深い雪の中をさまよい、万難を排して持ち込まれた痘苗が途絶えそうになるのを必死で守り続けた男の物語は感動的である。吉村昭の「雪の花」という小説を読むまでは、僕は幕末の越前福井にそんなに偉い人がいたことを知らなかった。