人形町散策

日 旧暦7月3日 先負 乙亥 一白水星 Tage 11e. tref. V31 21725日目

日本経済新聞の先月の私の履歴書平岩弓枝が執筆した。僕は殆ど本を読まない人間で、新進作家はもちろん、かような代表的人気作家の作品さえも恥ずかしいほど読んでいないのであるが、毎日、私の履歴書を読み進むうちに、知らなかったことが次々と現れて新たな驚きを呼び、その意外性や人間性、現代の日本人から失われつつある価値を導いてもらえる喜びに打たれて、最終回を迎えるまでにはすっかりファンになった。が、履歴書を読んだだけでファンですというのも横着な話であるから、読んでみたいと思う本を二、三冊買った。本を買う時、一番迷うのは、読んだ後でその本を狭い自宅のどこに置くつもりなのかと自問することである。どんな本を買う時も、必ずそのような数秒の交渉の果てにレジに向かうことになる。読み終えたら適当にすれば良いようなものであるが、感動した本ほど手元に置いておきたくなるものである。そのようにして買った本の読後感はまた別に書くとして、短編の時代小説には江戸の町並みがよく出てくる。今、出張で日本に来ていて、短期間の仮住まいのこのあたりも、なにやらそんな歴史小説の舞台に近い気がして、暑さも忘れて町を散歩してみると、果たして賀茂真淵の住居跡に行き当たった。平岩弓枝の短編には「県居の賀茂真淵から入門を許す知らせが来た」とかそれに類することが出てくる。あの本居宣長も師と仰いだ県居大人はこの辺に住んでいたかと想像で時代を飛躍させてみるのであるが、不勉強の僕にはなかなかその世界に入ることが出来ない。江戸の夏は今ほど暑くは無かったろうと現実的なことを思ってアパートに引き返した。すると途中にせともの市が並んでいた。年に一度の人形町せともの市は確か明日からの三日間であるはずだがと思いつつ、覗いてみると欲しいなと思うものもあったが、再び家の狭さと収納の困難を思って、何も買わずにアパートに戻った。