歌仙の愉しみ

月 旧暦3月16日 赤口 辛卯 四緑木星 Anneli, Annika V17 21620日目

「歌仙の愉しみ」という本を読んだ。面白かった。当代随一の詩人、歌人、小説家である大岡信岡野弘彦丸谷才一が集まって連句をなすのであるから、つまらなかろうはずはないし、面白いとか何とかいうような言葉で読後感を語るのは控えねばならぬのであるが、他にどう書いて良いか分からない。連句は僕ら素人には何気ない詩句のつながりのようにしか見えないが、実はそれらの間には想像の連関が時にじわりじわりと、時にジャンプして次の歌に引き継がれていき、そればかりか、季節の指定があったり、恋を入れる場所が決まっていたり、月の定座は三つ、花の定座は二つ、という風になかなか規則が細かいのである。そんなこと、全く知らなかったから、本を読んで随分勉強になった。「わたしたちの歌仙」という序文があって、この序文単独だけでも随分楽しい。大げさに言えば、連綿と続く日本文学の詩歌の系譜にここで転換を試みようという気宇の大きさを感じた。芭蕉以後に盛んになった連句は、正岡子規の頃には爛熟を過ぎて退廃に至った。それを子規は連句の発句を俳句という形式に改めて育て上げたのであるが、それ以降の俳句は、ひどく個人的な、厳粛でまじめな、自己表現の手段に変わって行った。けれども連句が本来持っていた、社交性、諧謔性、座興でありながら共同体の作品であることの楽しさ、座の空気の高揚する興奮、などが、もっと見直されても良いのではないか、という提案である。三人の歌詠みは心底楽しんでこの本を作っているように思われる。出版社にとっては苦労の無い、自発的に出来上がった本であるかもしれない。