ミアの自死

土 旧暦8月5日 赤口 壬子 九紫火星 Sigrid, Siri 21403日目 9.0℃

どういう縁で知り合ったのか、ストックホルムに住むミアという女性は同居人に時々手紙をくれた。新聞の切抜きや、美しい切手を一緒に送ってくれた。楷書に近いその文字は、書き手が誰であるか僕にもすぐに分かった。スウェーデン語がしっかりわからなくてもどこか詩的で文学的な香りが文面に感じられる気がしていた。そしてそれは価値を共有するものへの信頼にあふれていた。ミアには娘がいて、我が娘と同じ年であるので、小さい頃、ストックホルムに行くと子供たちは一緒によく遊んだ。ミアの家にはテレビが無い。テレビの無い家で子を育てる教育方針に僕は感服した。

そのミアが8月8日に自ら死を選んでいた。見たことの無い筆跡の手紙はミアのご主人からのもので、同居人が最後に出した手紙は読まれることがなかったらしい。今日はその故人を偲ぶ会があって、同居人と娘とはそれに出席した。僕は二人を会場に送って行き、近くの駐車場でその会の終わるまで一人で待った。心に受けた傷は外からは分からないものである。近くに居ても気づかないこともある。そこまで苦しんだのなら、どうして相談してくれなかったのかと、遺されたものは一様に思う。何とかしてあげられたのではなかったかと思う。しかし、それは本当の辛さを知らないものの思い上がりに過ぎない。毎日の忙しさの中で、自分の歩みをとめて、とことん人の話を聞いてあげるなんて本当は誰にも出来ないことである。人は所詮孤独な存在である。そしてそのことに気づかない普通の人が、あたかもそれが正常であるかのようにこの世に棲息しているだけである。

やや寒し 届かぬ雲に 片便り