停電

水 旧暦 12月11日 仏滅 辛丑 二黒土星 Fabian Sebastian V3 24441 日目

お昼頃停電があった。停電になると辺りは一斉に静かになった。我が住む町はもともと閑静な住宅街で、それも大げさに言へば、森の中に点在する様に住宅が分散配置されてゐるから、日常がうるさいと感じることはあまりない。工場の騒音などとは無縁の区域である。それでも今日は停電になると、耳の遠い僕にもそれと分かるほどの静寂な世界となった。気温は氷点下11度であった。新春の勢ひある光が南の空の低い位置から斜めにさして、梢の先々をキラキラと照らした。この静かさと、この光と、この美しさがいっぺんに来たので、期せずして僕は心のなごむのを感じた。本来なら「それッ」と危機対応プログラムが始動しなければならなかったのだが、そんな気持ちは何処へやら行って、この静かさは良いなとしみじみ思った。こんな静かな世界で生きてゐれば人は今より幸せになれるのではないか。こんな静かな世界で生きてゐれば音楽はもっと豊かに僕らに響いてくれるのではないか。幸ひにして日本では、これから地方に過疎化が進むむらしいから、地方の人たちは大きな幸福を手にすることになる。不便な暮らしも悪くはない。生活が便利になれば時間を「他のこと」に当てられるといふが、人間は「生きること」そのものが「他のこと」より大事である。そんなことを思ってゐたら電気が来て、また日常が戻った。この間、約30分であった。