今川節からの手紙(5)

月 旧暦 4月1日 仏滅 甲午 七赤金星 新月 Erik V21 24206日目

89年前の今日、今川節作曲楽譜第4号が発行された。前回は第2号を紹介したので、順番から言へば第3号を紹介すべきであるが、それは手元にないのでとばして第4号(大正15年5月18日發行)の紹介に入る。ちなみに先日、楽譜発見に関する記事が福井新聞日刊県民福井朝日新聞に載ったが、昨日になって讀賣新聞からも取材を受けた。近いうちに讀賣新聞にも載るかもしれない。

さて、第4号は「春の朝」(曲のみで歌詞なし)と「夕愁」(本間一咲 謡)の2曲を収めてゐる。その編集後記は以下の通りである。

私の作曲楽譜第四号を作って 今川 節

暖い春は此処寸時ですぎ去らうとして居ります。作曲上の大きい希望をもって新春をむかへた私は、今日、ふりかへって見てその希望の十分の一も出来なかった事を痛切に感ぜさせられます。「言ふは易く行ふは難し」とは真に至言です。然し春のつきんとするところに新しい夏は、私を両手をひろげてむかへてくれます。春に失敗した私は夏に於てより一層努力せなければなりません。

   今月の曲について

「春の朝」器楽曲として之は私の一番最初の曲です。私はこの曲に於て春の朝のやはらかい気持をあらはそうと努めました。第一楽節は三月頃に出来てしまったのですが、中間楽節が仲々出来ず、幾度かかきかへて四月十日にやっとかき上げました。そうして、苦心した割合にこの楽節は大変まずくなりました。(中間楽節の下手なことは日本人作曲家の特徴だそうですが)それには楽式上の制約について考へていたことも原因しますが、出来得べくば、この楽節をいづれ書きかへたいと思ひます。尚私はこの一曲をふみ出しとして、今後色々の器楽曲の作曲を試みてみたいと思ひます。それにしても楽理の智識の貧弱、楽器についての理解のうすい事を今さらながら感ぜさせられます。ーー この曲全体としてはゆっくりとやはらかにひいていただきたいです。皆さんがこの一曲をとほして少しでも春の朝の気持を感じて下さるなら、それは私にとってどんなにうれしい事でせう。

「夕愁」之について少し書きたいのですが紙面がないので省く事にします。

(大正十五年五月十六日印刷納本 大正十五年五月十八日發行)