虚構の恋

木 旧暦 10月27日 赤口 癸亥 一白水星 Abraham V51 24054日目

日本経済新聞夕刊の「こころの玉手箱」と言ふコラムに今週はオペラ歌手の錦織健が書いてゐて、その3回目の記事に次のような一節があった。「オペラ歌手として味を出すために、女性と付き合っている雰囲気を漂わせて、恋多き男を装ったりもする。だが、歌の世界では、厳しく自己節制する人間が勝つと確信している。」僕は錦織氏の歌を聞いたことが無いのだが、やっぱりさうか、と妙に納得するものがあった。この言葉は何もオペラ歌手だけに適用されるものでもあるまい。今年亡くなった渡辺淳一は、男は自分の欲望に素直に従って、大胆に行動してこそ人間らしい生き方ができると説いたが、人は普通、現実の世界と虚構の世界との間に仕切りを設けて生きるものである。渡辺氏の様にその垣根を取り払って生きる人もあるのか知れないが、真似するにはあまりにも大変な生き方だ。いつからか僕は、「恋愛は虚構の中でのみ成立するものである」と信じる様になった。現実の世界では実務に徹し、虚構の世界で恋に徹する。そしてこの二つの世界を自由に行き来する生き方もあって良いのではないかと思ってゐた。錦織氏の語る確信を読んだ時、そんなことをふと思った。