幻のコンサート

水 旧暦 5月21日 先勝 庚申 六白金星 Björn Bjarne V25 23870日目

NHKテレビでも「クラシック音楽館」など、クラシックコンサートの模様を中継した番組があるが、居間で映像を見るのではなく町の劇場まで出かけて行って、そこで世界のコンサートを、あたかも本当の会場に入場したかの様な効果を狙って見せてくれる催しがある。録画の上映ではなく、同時中継であるところがエキサイティングである。僕らの町の劇場でもそれをやってゐた。今日の出し物はベルリンフィルの春のチクルス最終日である。プログラムには、チャールズ・アイヴズ、リヒャルト・シュトラウスヨハネス・ブラームスの曲が並んでゐる。特にブラームスはピアノ協奏曲第1番をダニエル・バレンボイムが弾く。指揮はサイモン・ラトル。これを見逃す手はないぞと思って出かけた。楽しみに劇場に入ると僕が一番乗りであった。玄関脇の小さな椅子に座って受付の始まるのを待ってゐたら、どこからかおっさんが出て来て、パラボラアンテナの具合が悪いから今日は中止だと言ふ。ガッカリした。客は僕ひとりであった。入場料は既にネットで払ひ込んであった。そのおっさんは、電子的に払ひ戻しをすると言った。僕はカードを出した。おっさんは色々やって見たが、いくらやってもうまく行かないと見えて、今度は現金で払ひ戻すと言って、目の前にお金を並べた。さうかうしてゐるうちに、玄関から上品な女の人が入って来た。「今日は中止ださうです」と僕が言ふと、その女人は「エッ」と驚いて、僕以上に大げさに残念さうにため息をついた。それから「私は切符を買ってないから面倒はないわ」と言って出て行った。外に出るともう午後7時を回ってゐたが、お日様はまだ高かった。明るい夏の夕暮れを自転車で家に帰ったが、ちょっとつまらない夜であった。