The Reason I Jump

木 旧暦 5月1日 大安 庚子 四緑木星 新月 Yvonne Jeanette Kristi himmelsfärds dag V22 23850日目

家に居ると案外読書ができないものである。家に居る時にしか出来ない用事が次から次へと頭に浮かんで、こんなことをしてゐる場合では無いと言ふ声が心のうちからする。それで落ち着いて文字を追へないのである。夜になると睡魔が襲ふ。それで、家を離れると読書が出来る、といふ奇妙なことになる。今日は東京への移動中に東田直樹著「自閉症の僕が跳びはねる理由」を読んだ。この本は英語訳では ’The Reason I Jump’ と短いタイトルで出版されてゐてアメリカではベストセラーであると言ふ。著者は大いなる努力の末に、筆談で自分を表現するといふ手段を獲得し、驚くほど巧みな表現力で自閉症の子は如何に苦しんでゐるかを書いた。自閉症の子によく見られる反復的な行動などの意味が解説されてゐて、読み進むうちに、さうだったのか、さうだったのか、と何度も頷いた。人間を人間たらしめるものはファンタジーである。谷崎潤一郎の「細雪」であったか、トイレで変な独り言を言ふ男の描写がある。僕は谷崎が小説の中にあれを書いた理由が分かる様な気がする。それは人間のファンタジーの発露のひとつのかたちである。しかし、そのファンタジーの発露が自分で制御できないほど強烈な形で表れる時、それは自閉症といふ形を取るのではないか。してみれば、自閉症の子は、最も人間らしい特性の故に、その最も進んだ形で苦しまねばならない一方で、それは人間が自然の中で本来あるべき姿への回帰を示唆してゐる様にも思はれる。この本を読んで僕はさういふことを思った。