「武士の娘」

土 旧暦 9月1日 先負 甲辰 八白土星 新月 Bror V40 23615日目

自分で買った本ではないのであるが、古い本で、「武士の娘」(杉本鉞子著、大岩美代訳、筑摩叢書97)という本が手元にあって、それを読んだ。以前に同居人が姉から譲っていただいた本である。著者はお維新の数年後に越後長岡藩の家老の娘として生まれていて、今NHK大河ドラマでやっているらしい「八重の桜」とも時代的に重なるのではないかと思う。会津と越後とはあの時代、後に新政府となる勢力に抵抗する側にまわり、似たような動きをした。著者はその戊辰の役の傷跡もまだ癒えなかったであろう長岡の町に生まれた。津田梅子はその2年前に既にアメリカに渡っていたが、この著者もまた後年、アメリカに渡る運命を辿ることになる。そこで体験するする文化の違いは、現代の私たちがしばしば容易に口にするカルチャーショックという言葉では到底表現できないほど過酷なものであった。アメリカ生まれの二人の娘たちが日本に戻って受ける教育の現場でもその困難さは現代の帰国子女の悩みで推し量ることは慎むべきでないかと思う。しかし、それにも拘らず、そのような体験を通じて、人の温かさを感じ、人間はみな同じなのだという述懐を思わせるくだりもあって感動的であった。お武家の娘に課された幼少の頃の躾の厳しさもたしなみも人間のゆかしさも、もう今の日本人にはすっかり忘れられたものである。忘れられているけれどもその遠い記憶のようなものに思い当たる日本人は多いと思う。それ故に僕はこの本を多くの人たちに読んで欲しいと思った。それは美しい生き方とは何かという問いかけへのヒントにもなっていると思うからだ。