「下山の思想」を読んで

土 旧暦 4月13日 仏滅 甲午 七赤金星 Rutger Roger V22 23125日目

五木寛之の「下山の思想」という本を読んだ。平明な語り口で書かれていたのですらすらと読むことが出来た。僕らの年代の読者には共感することも多いが、若い読者はどんな風に読むだろうかと思った。戦後の高度成長を経験してきたあなたがたの世代には下山してもらって構わないが、俺達に登山の機会は与えられないのかと思う向きもあるかもしれない。だが、下山の思想とは僕に言わせれば「驕れるものは久しからず」という平家物語冒頭の言葉に通じるものがあって、「万物は流転する」という昔からの見方の延長にあるものだと思う。本人は下山しているつもりが、自分の気づかぬうちに遥かなる山へと向かわされる場合もある。頂上に達すれば後は降りるしかないとはあまりにも社会現象を現世の感覚で見るからそのように映るだけのことではないか。心の中に登山を試みる時、ひとつの頂点に達すると、今まで見えていなかった大きな山がいつのまにか現れていることもある。そのような過程を繰り返すと、仮想世界ではいつまでも登山を続けることも出来る。だが、それを可能ならしむるものは、現世においては「下山の思想」を体現することであるということがひとつのパラドックスである。