血脈

日 旧暦9月20日 仏滅 甲辰 八白土星 Finn V41 22894日目

福井滞在中に、駅近くの、高校時代からある書店に入った時、佐藤愛子の「血脈全3巻」が文庫本で並んでいた。迷わずにそれを買った。以前から読みたいと思っていた本であるがなかなかめぐり合えるチャンスがなかった。先の地震以降は、直接地震とは関係ないものの、本当に忙しい日々が続いて、およそ本というものに接することなく毎日が過ぎた。それで、この週末は休みにして、この日本で買って来た本を開いてみた。それは佐藤家の歴史の本であると同時に大正・昭和の歴史の本でもある。佐藤紅緑を主軸に、その息子のサトウハチロー、およびその兄弟たちの華やかな日常生活が活写されている。その実態があまりにも僕らの日常生活とかけ離れているものだから、刺激としてはすごく良かった。不遜な言い方かも知れないが、詩がどのように生まれるのかも何か分かるような気がした。できあがった詩のイメージと詩人の生き方との間にある予想もしなかったギャップが、かえって言いようのない安心感を与えてくれる。佐藤愛子は男の読者を喜ばせる表現を随所にちりばめて、また、深刻なことでも楽しく書いてある。現代は差別的表現を神経質に排除するものだから、無難で、その分読んで面白くない本が多いのではないかと思うが、こういう著者が今なお居てくれることはありがたい。佐藤紅緑の日記もところどころ出てくる。漢文調の流れるような名文に接すると、何度も読み返してみたくなる。ただ無難な生き方を求めがちな僕たちに、真実を生きるということはどういうことか、そしてそれはどのような苦しみを伴うものであるか、そこへと突き動かすものは何であるか、というようなことを改めて思ってみたりした。