自動車の音

水 旧暦 6月15日 友引 壬午 九紫火星 Ulrik Alrik V32 22093日目

先の戦争で、わが国の敗戦色濃くなった頃、空襲にやって来る敵機のエンジンの音を聞いて、その機種を言い当てる訓練があったという話を聞いたことがある。今、自動車の技術が発達して、ハイブリッド車などの最新鋭機種はあまりに静かに走るので、車の接近が人に感知されなくて却って危険であるという。このため、静かな車からわざわざ音を発生させて歩行者への注意を促すのであるという。すると、その音色によって、接近してくる車が、トヨタかホンダか、はてさて日産か、などと分かる時代が来るかもしれない。それにしてもせっかく静かな車が出来たのに、わざわざ音を出して走らねばならぬとは何とも割り切れない気持ちもある。井伏鱒二の「荻窪風土記」の冒頭の部分には、関東大震災前には、品川の岸壁を出る汽船の汽笛が荻窪まで聞こえたという話が出てくる。信じられないような気がするが、本当の話であるらしい。世の中がそれくらい静かであれば、如何に新型自動車が静かに走るといっても、その接近に気づかぬはずはあるまい。今の世は、バックグラウンドが大きいので、誰もが負けじと大きな音を出して、さらにバックグラウンドのレベルを引き上げている。新型自動車がわざわざ音をつけなくても、接近していることに十分気づくぐらい静かな世界に暮らしてみたいものである。