ペレはいずこに

金 旧暦6月2日 先勝 乙巳 四緑木星 Ulrika Ulla V27 21694日目

同居人が二日前、「月曜日からペレが帰って来ないらしいのよ」と言った時、僕は胸がドキンとした。ペレとは隣の猫である。己の死期を覚って、誰の目にも触れないところへそっと行ってしまったのではないか、という疑いが一瞬に全身を駆け巡った。今週は玄関外板の張替え工事をやっていたので、その物音が怖くて帰ってこないのでは無いかと、隣人は話していた。そうであってくれれば良いが、違うのではないかと僕は思った。そしてペレはとうとう今日になっても帰って来なかった。

ペレと僕とは気の通じ合うところがあった。去年の話であるが、外の椅子に腰掛けた僕のところにペレが来て離れようとしない。猫は大抵気まぐれであるから、少し動けばそのうちにどこかへ行くであろうと散歩を始めた。ところがペレは20分歩いても30分歩いても少し離れて付いて来た。犬を連れて散歩する人は多いが、散歩する男の後ろをとことこと付いていく猫の姿というのはもしかすると異様であったかも分からない。僕の方が疲れて家に戻るまで付いて来た。そんなことがあってから僕はペレを隣の猫ながら忠猫であるなと思っていたのである。

ペレがいなくなるちょうど1週間前の朝、3時に目が覚めた。雨が激しく降って雷がなっていた。何となく気になって玄関のドアを開けてみた。すると、ペレが中へ入れてくれと鳴いている、僕のドアが開いたのを見るとすばやくこちらに駆けて来て、ひときわ切なくニャーと鳴いた。僕は入れてやりたかったが、隣の猫であるので「駄目だよ」と言ってドアを閉めてしまった。これがペレとの別れになった。あの時だけでも中に入れてやれば、ペレは違った死に方を選んだかもしれないのにと、胸が痛んだ。