大江健三郎さん

2023-03-16 (木)(令和5年癸卯)<旧暦 2 月 25 日>(友引 癸酉 七赤金星) Herbert Gilbert 第 11 週 第 27064 日

 

大江健三郎さんがお亡くなりになった。新聞で大きく報ぜられ、スウェーデンの地方紙でも取り上げられた。朝日新聞3月14日の電子版には池澤夏樹氏による追悼の言葉がのせられた。深く感ずるものがあった。まだ若かった頃の僕は大江さんの文学に親しみを感じることができなかった。文学とは、何かもっと自分たちの生活から浮き上がった美しいものであって欲しいといふ気分が僕にはあった。だから、氏がノーベル文学賞受賞の時に、「私は川端康成の「美しい日本の私」の延長の上に自分の言葉を重ねることはできない」と言ふ意味の発言をされた時は、どことなく失望の気もしたのである。大江文学に現れる美とはどの様なものだらう。が、そもそもお書きになったものを読んでないので、ずっとそこで足踏みしてゐた。戦後の民主主義の中で育った僕らは、もはや平和は手中にあり、過去の戦争は大きな誤りであったといふ価値観が確立したと思ってゐたから、何も今さら文学がその分野に及ばなくても良いのではないかといふ気がしてゐた。でも、確立したと思ってゐたその価値観とは意外にも脆いものであったことが、最近の世界情勢の中の日本の動きから見えてくる。大江さんは時を選んで旅立たれたのではないか。その意味で大江文学はむしろこれから読み継がれなければならないといふ気がする。もうひとつ思ふことは、氏は、僕らにはわからない大きな忍耐の中で作品を書き続けられたのではないかといふことである。忍耐といふものを知らない人間には、他の人がどれほど忍耐してゐるかが分からない。直接的な言動ではなくて、表現の余韻の様なものの中から、忍耐の状況がうっすらと浮かび上がることってあるのではないかと思ふ。一方にノーベル賞の栄光を受けながら、もう一方に忍耐しつつ執筆されるお姿を想像する時、厳粛な気持ちになる。

過去10日間は気圧が1000hPaに満たなかったが、今日は1011hPaで良い天気になった。