平家物語 巻第四 「橋合戰 4」

2023-02-20 (月)(令和5年癸卯)<旧暦 2 月 1 日>(友引 己酉 一白水星)新月 Vivianne 第 8 週 第 27040 日

 

ここに乗圓房の阿闍梨慶秀が召し使ってゐた一來法師といふ大ぢからの早業があった。浄妙房のすぐ後ろについて戦ったのだが、行き桁は狭いし、そばを通り抜けることもできない。浄妙房の甲の先に手をおいて、「失礼します、浄妙房」と声をかけて、肩をづんど躍り超へて戦った。この一來法師は討死した。浄妙房は這ひながら帰って、平等院の前の芝の上に物の具を脱ぎ捨てた。鎧に当たった矢の跡を数へると六十三あった。裏まで通った矢は五カ所あった。だがいづれも痛手にはならなかったので、ところどころにお灸をして、頭に布を巻きつけ浄衣を着て、弓うち切り杖につき、低い下駄をはき、阿弥陀仏を唱へて、奈良の方へと向かって行った。

朝はあたりが白くなったが、春の雪のことで午後にはみな解けた。