平家物語 巻第四 「橋合戰 3」

2023-02-19 (日)(令和5年癸卯)<旧暦 1 月 29 日>(大安 戊申 九紫火星)雨水 Gabriella Ella 第 7 週 第 27039 日

 

続いて同衆の中から橋の上に現れたのは筒井の浄妙明秀である。黒みがかった藍色の直垂に黒皮威の鎧着て、しころが五枚ある甲の緒をしめ、黒漆の太刀をはき、二十四差した鷲のほろ羽の矢を負ひ、塗りこめ籐の弓に、好みの白柄の大長刀を取り揃へて進み出た。大音声をあげて名のることには「日頃は音にもお聞き及びであらう。今は目にも見たまへ。三井寺にはそのかくれもない。同衆の中に筒井の浄妙明秀といふ一人当千のつはものであるぞ。我と思はん人々はかかってまいれ。見参せん。」と言って、二十四差した矢をさしつめひきつめさんざんに射る。やにはに十二人射殺して、十一人に怪我を負はせると、ゑびらにはひとつの矢が残った。弓をからっと投げ捨てて、ゑびらも解いて捨て去った。毛皮で作った靴を脱いで裸足になり、橋の行き桁をサラサラサラと走り渡った。普通の人には怖くて渡ることができないけれども、浄妙房にとってはまるで一条二条の大路を行く様なふるまひである。長刀でむかふ敵五人を薙伏せ、六人目の敵にあった時、長刀が中よりうち折れたので捨て去った。その後は太刀を抜いて戦ったのだが敵は大勢である。蜘蛛手・角縄・十文字・蜻蛉返・水車、八方に隙間なく斬ってかかった。やにはに八人斬り伏せ、九人目の敵の甲の鉢にあまりに強く当たったので、目貫のもとよりちゃうど折れ、クッと抜けて、河へザンブと入った。かうなると頼むところは腰刀ひとつである。ひとへに死なんと狂いまくった。

雨水。晴れたが風は強く冷たかった。