平家物語 巻第四 「鼬(いたち)の沙汰 1」

2022-09-05 (月)(令和4年壬寅)<旧暦 8 月 10 日>(大安 辛酉 六白金星) Adela Heidi 第 36 週 第 26872 日

 

鳥羽殿の後白河法皇は「遠き国に流されるかも知らん。はるかの島へ移されるかも知らん。」と仰せになるのだが、ともかくもこの城南の離宮での幽閉のお暮らしは今年でもう二年になるのだった。

治承4年(1180年)5月12日正午頃のことであった。御所の中をたくさんの鼬が走り騒いだ。法皇は大変お驚きになって、その様子を形に書きとどめて、近江守仲兼 ーそのころは鶴蔵人と呼ばれてゐたのだがー をめして、「この占形を持って、泰親の元へゆけ。きっと考へさせて、占いの結果を書き記したレポートを提出させよ」と仰せになった。仲兼はこれをお預かりして、陰陽頭・安倍泰親の元へ行った。おりふし、家に居なかったが、「いま、白河の方へ行ってますよ」といふことであったので、賀茂川の東側、ー今でいへば銀閣寺道か、哲学の道か、どっかあの辺りだと思ふー に訪ねて行って、泰親にあふことができた。後白河法皇のご質問を説明して占いをしてもらった。すぐに吉凶の結果を書いてくれたので、仲兼はそれを持って鳥羽殿へ戻った。ところが門より中に入らうとすると、守護の武士が通してくれない。鳥羽殿の建物の様子はよく知ってゐたので、築地を超えて、大床の下に潜って這って行き、すのこの様な隙間のある切り板から泰親の占い報告書を法皇様にお渡しするのだった。後白河法皇はこれを開けてご覧になった。「いま三日のうちに御悦びと御なげきと両方ありますよ」と書かれてあった。法皇は「悦びの方はまあわかるよね。けど、なげきとはどんななげきなのだらうか。これだけの逆境の中で、さらにどんな悪いことが起こるのかしら」とおっしゃるのだった。

初秋の空