平家物語 巻第四 「源氏揃 5」

2022-08-27 (土)(令和4年壬寅)<旧暦 8 月 1 日>(友引 壬子 六白金星)新月 Rolf Raoul 第 34 週 第 26863 日

 

その頃、熊野に別当湛増といふ人がゐた。右大臣源師輔の子孫で、この家は代々熊野の別当(社寺などの長官)の役目を引き受けてきた。この人は平家を大事にする人であったが、どういふいきさつで漏れ聞いたのか、「新宮十郎義盛こそ、高倉の宮の令旨を給はって、美濃尾張の源氏どもにふれもよほし、既に謀反を始めてゐる。那智新宮のものどもは、さだめて源氏の味方につくであらう。しかし、この湛増は平家のご恩を天や山のように受けてきた身であるから、どうして背いたりできようか。那智新宮のものどもに矢ひとつ射かけて、平家へ詳しい事情を知らせることにしよう。」かう言って、甲冑を身につけた千人の軍団を新宮の湊へ向けさせた。これを迎へ討つ新宮では鳥井の法眼(法眼は僧侶の位)、高坊の法眼をはじめ、新宮の社家に仕へた侍たち、宇井・鈴木・水屋・亀の甲などが集まった。また那智には執行法眼をはじめとして多く集まり、都合その勢二千余人となった。鬨の声を上げ、矢を合はせ、源氏の方へはこんな風に射ろとか、平家の方にはこんな風に射ろとか、矢さけびの声は衰へることなく続き、ヒューッと音を立てて飛ぶ鏑矢の、その音が鳴り止む暇もなく、その戦ひは三日に及んだ。熊野の別当湛増の軍は、家の子・郎等をたくさん失った上、湛増自身も傷を負って危ない命拾ひをして、やっとのことで本宮へ逃げ上ってきた。

Stockholmで。Årstaviken から Gullmarsplan 方面をのぞむ。