「すごい物理学講義」読後感3

2022-03-30 (水)(令和4年壬寅)<旧暦 2 月 28 日>(大安 壬午 七赤金星) Holger Holmfrid 第 13 週 第 26719 日

 

カルロ・ロヴェツリの「すごい物理学講義」は、科学史の書としても内容が豊富である。それもコペルニクスガリレオデカルトニュートンなど、近代以降から説き起こされた科学史ではなくて、紀元前の古代ギリシャの哲学者の名前もたくさん出て来る。中でもデモクリトスの原子論は特に重きが置かれる。僕らは「万物は元素でできてゐる」といふことを学校で習って、「ああ、古代のデモクリトスは正しかったのだ」で終はりがちであるが、その対象が物質ばかりでなく、実は空間や時間そのものにも適用されることまでは想像が及ばない。といふか、物質も空間も時間も微細を突き詰めればみな同じで、それらには最小の単位があるのだと著者は言ってゐると思ふ。時間も微細を突き詰めればこれ以上に分割できないところに行き当たる。その意味では数直線を思ひ描いて、数学的な無限と連続の概念をモデルにして時間軸もしくはこの世界を理解しようとしてもダメなのである。紙の上に三角形の図形を書いて、「これは三角形です」と説明しても、それは本当の三角形ではない。本当の三角形の頂点は点であり、辺は直線であり、点には大きさがなく辺には幅がないから、書かれた三角形は本当の三角形に似せて書かれたイメージにすぎない。イデアは観念的なものだが、いま、カルロ・ロヴェツリの説によれば、その観念的なものは、どんなに精緻を極めても、現実の世界の中には実現しない、と言ふことかなと思ふ。

f:id:sveski:20220331065713j:plain

Nyköpingshus