平家物語「醫師問答 2」

2022-02-15 (火)(令和4年壬寅)<旧暦 1 月 15 日>(先負 己亥 九紫火星) Sigfrid 第 7 週 第 26676 日

 

また熊野参詣からの下向で、岩田川を渡ったときのことである。嫡子権亮少将維盛以下の公達は、神事に着る白の狩衣の下に薄紫色のきぬを着てゐた。夏のことなので、何となく河の水に戯れたのであるが、狩衣が濡れて下地のきぬの色が透けて見えた。それが薄墨色になって、あたかも喪服のように見えたのだった。筑後守貞能はこれを見とがめて、「これはどうしたことだ。あの御浄衣がはなはだ忌まはしく見えてしまふ。みなさん、その浄衣をお着替へなさい」と言った。するとおとどは「ああ、私の願ひは既に成就したのだ。その浄衣を着替へてはいけません。」と言ふのだった。そして、岩田川より熊野へ、所願成就のお礼の奉幣使を別に立てられた。人々はなんのことだろう、変だなと思ったけれども、重盛の真意は分からなかった。まもなくこの公達が本当の喪服をお着になることになろうとはその時は思ひもよらず、不思議なことであった。

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小雨の降る日であったが、夕方に晴れた。