平家物語「僧都死去 2」

2022-01-14 (金)(令和4年壬寅)<旧暦 12 月 12 日>(大安 丁卯 四緑木星) Felix Felicia 第 2 週 第 26644 日

 

俊寛は言葉を続けた。「この島へ流されてからといふものは、暦もなければ、月日のかはりゆくのも分からない。ただ花が散り葉の落ちるのを見て春秋をわきまへ、蝉の声がすれば夏だと分かり、雪が積もれば冬だと知る。お月様を見て、白月(びゃくげつ、朔日から十五日まで)と黒月(こくげつ、十五日から晦日まで)の移り変はる様子から三十日をわきまへ、指を折って数へれば、あの子はもう六つになる筈と思ってゐた。けれども聞けばはや先立ってしまったといふことだ。西八条へ出頭した時、あの子は「私も行きます」と慕ってくれたが、「すぐに帰って来るよ」となだめて出かけたのがついこないだのことのように思はれる。あれが今生の別れであったのなら、どうしていましばらく一緒に居てやれなかったものかと悔やまれる。親となり、子となり、夫婦の縁を結ぶも、みな、この現世だけの約束ごとではないのだ。それなら何故、あのものたちはそのように先立ってしまひながら、いままで夢にも幻にも知らせてはくれなかったのか。人目も恥ぢず、何としても生きていかうと思ったのは、ひたすらあのものたちにもう一度会ひたいと思へばこそではなかったか。残された姫のことこそ心配にはなるけれども、生きた身、歎きながらも暮らしていってくれるだろう。私がさうばかりも長く生き永らへてお前につらい目を見せるのも、我ながら情けしらずといふものであろう。」と言って、何も食べないようにして、ひとへに弥陀の名号をとなへて、臨終を迎へるときに妄念が起こらないようにと祈るのであった。

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やや風の強い日。今日は散歩にも出なかった。