平家物語「少将都帰 7」

2021-12-17 (金)(令和3年辛丑)<旧暦 11 月 14 日 赤口 己亥 七赤金星) Stig 第 50 週 第 26616 日

 

少将が流された時、まだ三歳であったお子は今では大人らしくなって、髪を結ふほどにもなられた。またそのお側に三つくらいの幼子がゐる。少将は「この子は?」とお尋ねになった。六條は「これこそ」と言ふだけで、あとは袖を顔におしあてて涙を流すばかりであった。さう云へば島に下る時に、気分が悪さうな有様であったことに思ひあたり、差し障りなく育ってくれたのだなと、その間のことを思ひだしても悲しいことであった。

少将はもとのように院にめしつかはれて、宰相中将に昇進された。

一方、康頼入道は、東山雙林寺に山荘を持ってゐたので、そこに落ち着いて、ともかくもこれまでのことを思ひ続けたのであった。

ふるさとの軒の板間に苔むして思ひしほどは漏らぬ月かな

故郷の山荘にある家の軒の隙間には苔が生えてゐて、想像したほどには月影が漏れてこないものだなと歌ってゐる。なほ、京都の地図を広げてみると、雙林寺は八坂神社の裏といふか、円山公園の南にある。康頼入道はそのままそこに籠居して、辛かった昔の日々を思ひ続け、寶物集と言ふ物語を書いたと言はれてゐる。

f:id:sveski:20211218053043j:plain

澄んだ空を背景にすると木々のシルエットも美しい。