平家物語「少将都帰 3」

2021-12-09 (木)(令和3年辛丑)<旧暦 11 月 6 日 仏滅 辛卯 六白金星) Anna 第 49 週 第 26608 日

 

夜が明けると、成経はお墓を整備した。新しく土を盛り上げ、杭を立てて横木を渡した柵を設け、お墓の前には仮屋を作った(と言っても多分自分で工事したのではなく、現代風に言へば業者に指図したのだと思ふが、こんな時、かかった費用はどのようにしたのか、手持ちの路銀から出したのかしら、読みながら気になった)。七日七夜念仏を唱へお経を書いて、その満願の日には大きな卒塔婆を立て、そこに「過去聖霊、出離生死、證大菩提」(死んだ人の精霊が生死の世界を離れ出て大きな悟りを得られますように)と書き、年号月日の下には「孝子成経」と書いた。すると、居合はせたその土地の身分の低い人たちも、「子に過ぎる宝はないことよ」と言って涙を流し、袖をしぼらぬものはなかった。年が去り、年が来ても、忘れられないのは撫育の昔の恩である。夢のごとく幻のごときもの、頬をつたふ恋慕の涙は尽きることもない。三世(現在・過去・未来)十方(八方位に上と下を併せて)の仏陀の聖衆もお憐れみになって、亡魂尊霊もどんなにかお喜びであったことだろう。「今しばらく念仏を唱へて、もっと功徳を積むべきではありますが、都に待つ人どもも待ち遠しくしてをることでせう。またいつかお参りいたします。」と言って、亡者にお暇を申し上げ、泣く泣くそこを出発した。草葉の陰でもきっと名残惜しく思はれたことであろう。

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散歩がいつもより遅い時間になってしまった。