平家物語「少将都帰 2」

2021-12-08 (水)(令和3年辛丑)<旧暦 11 月 5 日 先負 庚寅 七赤金星) Virginia 第 49 週 第 26607 日

 

それから成経は父のお墓を尋ねた。お墓といってもしっかりと土を盛り上げた土饅頭らしいものもなく、周りに少しの松があるばかりである。土の少し高い部分がかつての墓所だったところかと想像して、袖をかきあはせて、生きてゐる人に語りかけるように、泣きながら言ふのだった。「都から遠いところの土におなりになったことを、島でかすかに伝へ聞きました。しかし、思ひ通りに動くこともできない囚はれの身であるので、急いで参ることもできませんでした。この成経はかの島へ流されて、露の命と消えることもなく、2年を送って召し返されることになりました。その嬉しさは、嬉しいに違ひありませんが、それも父上がこの世に生きてらっしゃることを見ることができてこそ、ながらへただけの甲斐があるといふものです。ここに来るまでは心も急いだのでありますが、これから先は帰京の足も重いものになるでせう。」とかきくどいて泣くのであった。誠に生存の時ならば成親の方から「どうしたのか」とお声をおかけになる筈なのだが、生死を隔てた習ひほど恨めしいものはない。苔の下には答へるものは誰もない。ただ嵐に騒ぐ松の響きがあるばかりである。その夜は夜もすがら、康頼入道とふたり、墓の周りをぐるぐる回って念仏を唱へた。

f:id:sveski:20211209045848j:plain

気温が低いので、一度降り積もった雪はなかなか解けない。