平家物語「蘇武 3」

2021-08-04 (水)(令和3年辛丑)<旧暦 6 月 26 日> (先勝 甲申 七赤金星) Arne Arnold    第 31 週 第 26471 日

 

一方で李陵は胡國にとどまってつひに帰らなかった。何とかして漢朝へ帰りたいと嘆いたが、胡王が許さなかった。漢の武帝はそのことを知らなかった。李陵は不忠のものだとして、既に亡くなってゐる二親の屍を掘り起こして鞭打った。そのほか、兄弟・妻子などの親族も皆処罰された。李陵はそれを伝へ聞くと、恨めしく思った。それでもなを故郷を恋つつ、君に不忠なきことを一巻の書に著した。それを知った武帝は「それは不憫であったな」と言って、父母の屍を掘り起こして打ったことを後悔された。

漢家の蘇武は書を雁の翼に付けて郷里へ送り、本朝の康頼は浪のたよりに歌を故郷に伝へた。あちらは一筆に思ひを述べ、こちらは二首の歌であった。あちらは上代であり、こちらは末代である。一方は胡國であり、他方は鬼界ヶ島である。土地も違ひ、時代も違ふけれども、風情は同じである。珍重すべきことである。

f:id:sveski:20210805032243j:plain

8月になって少し秋の気配あり