平家物語「卒塔婆流 1」

2021-07-14 (水)(令和3年辛丑)<旧暦 6 月 5 日> (仏滅 癸亥 九紫火星) Folke Kronprinsessans Födelsedag    第 28 週 第 26450 日

 

丹波少将(藤原成経)と康頼入道のふたりは、鬼界ヶ島で那智のお山に似た場所を探し出して、そこを三所権現の場所とした。ふたりは都に帰ることができますようにと毎日お参りした。通夜する日もあった。ある時ふたりで通夜して、夜もすがら今様を歌った。暁がたに康頼入道がウトウトとまどろんだ時、夢を見た。沖より白い帆をかけた小舟が一艘漕ぎ寄せてくる。紅の袴を着た女房たちが二、三十人岸に上がって、鼓を打ち、声を整へてうたひ出した。

よろづの仏の願よりも

千手の誓ぞたのもしき

枯れたる草木もたちまちに

花咲き実なるとこそきけ

と、上手に三べん繰り返すと、サッとかき消えてしまった。夢から覚めた康頼は不思議だなと思った。「これは龍神の化現に違ひないぞ。三所権現のうち、西の御前(結宮)は本地千手観音でゐらっしゃる。龍神は千手の二十八部衆のひとつであるから、これは願ひを聞き入れてくださるといふことではないかしら」そしてまたある夜、ふたりで通夜して、まどろんだ間に同じ夢を見た。沖より風が吹いてくる。ふたりの袂に木の葉が舞ひ込んだ。何気なくそれを取って見ると、御熊野の南木(なぎ・まき科の喬木)の葉であった。そのふたつの南木の葉は虫が食ったあとが文字になってゐた。文字を辿れば一首の歌であった。

ちはやぶる神に祈りのしげければなどか都へ帰らざるべき

神様からの内示があったのである。

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散歩するには暑過ぎる夏日であった