吉川英治の「新・平家物語」

2021-06-13 (日)(令和3年辛丑)<旧暦 5 月 4 日> (友引 壬辰 五黄土星)  Aina Aino    第 23 週 第 26419 日

 

吉川英治の「新・平家物語」を到頭しまひまで読みきった。読みきった後で、しばらく胸の内が静まるのに時間がかかった。また、小説であるからそのことに注意した上でのことだが、歴史上の出来事で知らずにゐたことも多々あった。パズルの空隙が埋まるような感じがしたことも多かった。表題だけを見ると古典の「平家物語」を思はせてしまふが、「新・平家物語」はその時空の範囲を超えて、もっと前の保元・平治の乱から始まって、奥州藤原氏や、あとは頼朝以降にも及ぶ広がりを持ってゐる。この小説は1950 年から実に7年間にわたって週刊朝日に連載された。杉本健吉画伯の挿絵が見られないのは少し残念な気がした。当時はまだ戦争の傷跡が人々の心にも残ってゐた時代で、辛くも生き残った多くの読者は自らの体験に重ねあはさる部分もあったのではないかと思ふ。戦後の復興へ向けての希望とあひまって、その読者たちが受けたであろう感動は、僕にもわかる気がする。現代では次々と新しい作家が誕生するし、もちろんそのことは喜ばしいのであるけれども、今の週刊誌にこのように密度の濃い小説が掲載されることはあるのかなと思ってしまふ。週刊誌を全く読まないのでわからない。今の人は、この物語の感動を素直に受けられる人とさうでない人がゐるかもしれない。僕自身でいへば、子供の時から受けた物の考へ方の基本は、まっすぐにこの物語の示すところの延長の上にあるように思はれてならない。コロナの時期で暇に任せて古典の「平家物語」を紙に写し取ってゐるのであるが、参考になることも多かった。

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時々雲多し