新聞で読む戦争体験記

2019-08-15 (木)(令和元年己亥)<旧暦 7 月 15 日>(先負 甲申 一白水星)満月 Stella Estelle Traditionell surströmmingspremiär 第 33週 第 25753 日

 

朝日新聞デジタルで、松本茂雄さんといふ93歳になる方のシベリア抑留体験の記事を読んだ。絵の上手な方で、その脳裏に浮かぶ、遥か昔の過酷な体験が絵になって表現された時、読者は今ひとつ身近にその体験を想像できるのではないかと思った。満人一家の犠牲の話は本当に悲しいものであった。戦闘後の数日間、現地の一家が水くみなどで助けてくれたといふ。隊が退却するとき、古年次兵は口封じにその一家を子どもまでみな殺しにしたといふ。隊の行き先をソ連に教へてしまふのではないかとの疑心からである。その話を読んで僕は見知らぬその満人一家のためにそっと合掌した。誰の命令かわからぬが、その様な人間が隊にひとりでも居れば、世界からは、自分もその犯罪の一員にされてしまふ。苦しみは二重にも三重にも重なってくる。僕らはどんなに強くその状況に思ひを馳せても、その体験を共有することはない。戦争の体験談を読むことは大事だが、読んだことで、あるいは話を聞いただけで、「自分はわかったぞ」と思ってはならない。当然のことかもしれないが、イメージの世界とリアルの体験との間には深い溝があることを知るべきである。末尾の方に、「講演会では話を聞いた多くの人が涙し、拍手し、握手やハグを求めてくれる。でもその後にどんな行動をしてくれているのだろうか。」と書かれてあった。この世の中の多くの人は(僕もその一員であるが)、話に感動した後で「それは昔の話でしょ」と思ってしまふのだ。本当は当時に酷似した状況が迫ってゐることに気づかぬままに。

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夏の終はり、日の沈むのも次第に早くなって来た。