七松亭

土 旧暦 8月18 日 先勝 丁卯 三碧木星 Birgitta Britta V40 25078 日目

親から聞いた話だが、僕の家のある位置には江戸時代にお殿様がお忍びで通はれる茶室があったといふ。一昨日僕が掃除した、今では塵芥の多い川と化してしまった水の流れは昔は綺麗で、お堀に通じてゐて、お殿様は舟でその茶室に通はれたといふ。子供の頃には、その川の向かうは遠くの山の麓までずっと田んぼが続いてゐた。色鮮やかな春の青田はどこまでも続き、夏の夜には目の前に蛍も飛び交ひ、その四季折々の風景は、今から思ふと絶景であった。江戸時代にはその周りに7本の松があったことから、茶室の名前は -僕の記憶が正しければの話だがー 七松亭と呼ばれた。今でもそのうちの 3 本までは存続してゐる。1948 年に福井地震があった時、我が家も倒壊したが、母の胎内に居た僕は、母と共に松の古木のおかげで命を永らえたといふ話を聞いたこともある。存続する松の木は 3 本であるとずっと思ってゐたのだが、意図して植えたわけでもないのにいつの間にか表側の庭に、数へると 4 本の松が生え、合はせると 7 本の松になってゐる。そのうちの大きなものは伸び放題になってゐて、少し困ったと思ってゐた。自分では何もできないのだ。すると通りがかりの庭師らしき人が、剪定をしないかと声をかけて来た。悪い人の様にも見受けられなかったので、明日一日だけの作業を頼んでみた。