ニコラス君と日本語

土 旧暦 7月9日 先負 庚午 六白金星 Henrietta Henrika V34 24301日目

僕のところに日本語を習ひに来るのはダニエル君だけではない。今日はニコラス君が来た。ダニエル君は20歳だが、ニコラス君はまだ小学3年生である。したがって勉強の方法は全然異なる。ニコラス君はすばしっこくてチェスも得意だし泳ぐのも速い。両親は中国人で日本に強い興味を持ってゐる。先日も夏休みを利用して家族で日本に行き、帰って来たばかりである。母親はかなりの教育ママで、自分自身も本当は日本語を学びたいのだが仕事が忙しく、それも叶はないので、息子だけでも日本語を学ばせたいと思ってゐる。家が近所であるのと僕が暇らしい様子をそれとなく知って僕のところに来る様になった。日本語の勉強の目標のもち方についてはその母親の考へと僕の考へでは相当な開きがある。それはこちらからはよく見えるのであるが、僕はその期待には応へられない。母親はもし僕の先生ぶりを知ったらガッカリすると思ふが致し方がない。僕は日本語の勉強を引き受けるといふよりもむしろ託児所代はりくらいにしか思ってないのである。ひらがなやカタカナはまだ全部は読めないが自然に次第に読める様になると思ってゐる。教科書としては福音館書店の「にほんご」を使ってゐる。意味がわからなくても、なるべくリズムのある文章を音読させるだけにしてゐる。僕の後について読むのだがテキストを目で追ふのが面倒らしくニコラス君はあまり本を見ずに耳に入る音をただ真似てゐる。僕の読み方がまた福井弁の変なアクセントなのだが、それをその通りに真似るので気になる。すぐに飽きるので飽きたらそこまでにする。台所の円卓で勉強する。僕が短い文章を読んで聞かせる時に円卓に肘をついて頭を支へることがあったので、その姿勢は失敬だと注意すると「ハッ」と気のついた様な顔になった。たまにさういふことを注意してやることの方が日本語の勉強より大事だと思ってゐる。